未破裂脳動脈瘤と診断された患者様へ

脳動脈瘤とは?

 脳動脈瘤は、脳の血管にできた風船のようなコブ(ふくらみ)のことです。この脳動脈瘤が破裂(やぶける)するとくも膜下出血をきたします。未破裂動脈瘤は破裂をきたしていない脳動脈瘤であり、そのほとんどは無症状ですが、近年脳ドックや画像診断の普及により発見されることが多くなってきました。
 脳動脈瘤は、脳の血管分岐部の璧が弱い部分に血液の圧力が加わり続けることで、瘤を形成すると考えられています。動脈硬化や、高血圧などの生活習慣や、生まれつき血管壁の弱い(家族性に動脈瘤を認める方はそのような素因があるとも言われています)ことが要因となることもあります。我が国では、脳ドックを受けた方のうち5~6%の人に未破裂動脈瘤が発見されたという報告もあり、決してまれな病気ではありません。喫煙、大量飲酒、高血圧、血縁者にくも膜下出血になった方がいる人は、脳動脈瘤を保有する可能性が高いと考えられています。

くも膜下出血とは?

くも膜下出血は人口10万につき年間約20人に発症する疾患とされていますが、実際は欧米よりも発生率が高く、脳動脈瘤の破裂リスクは日本人においては高いものと推測されています。その予後は救急体制の整備や手術・血管内手術技術の進歩,術後管理の充実などに伴い少しずつ改善していますが、おおむね死亡率は30-50%におよび、生存できた場合にも、後遺症などで社会復帰率は50%に達することはない予後不良の疾患です。

未破裂動脈瘤の症状は?

ほとんどの未破裂脳動脈瘤で症状はありません。したがって破裂をしない限り日常生活に支障をきたすことはありません。しかし時に動脈瘤が脳神経にあたって症状を出すこともあります。このため「目が見にくい」、「物が二重に見える」といった症状で発見されることもあります。

未破裂動脈瘤はいつ破裂するのか?

個々の動脈瘤の破裂については、現在のところ、いつどのタイミングで破裂するかを予測する方法はありません。したがって生涯破裂することなく経過する可能性もある一方で、破裂により重篤な状態になる方もいます。破裂した場合には、突然今まで経験したことのないような激しい頭痛(バッドでなぐられたような頭痛)や意識障害、麻痺などの症状が出現します。

未破裂動脈瘤の自然歴(破裂率などについて)
どのような動脈瘤が破裂しやすいの?

脳動脈瘤の破裂率について、世界中で多くの研究が行われてきましたが、正確な破裂率は明らかにはなっていません。それは人種による破裂率の差(日本人では破裂しやすい)や、比較的破裂の危険性が高いと考えられている患者さんの多くは治療を受けているためです。

2014年に複数の研究結果を解析し発表されたPHASESによれば破裂に関与する因子として、人種、高血圧、年齢、動脈瘤サイズ、くも膜下出血の既往、動脈瘤の部位とされました。

また日本脳神経外科学会が中心となり、日本人における調査では(UCAS Japan)、全ての動脈瘤の年間破裂率は0.95%で以下の要因が破裂危険因子であることが分かりました。

  • ① サイズが大きくなるに従い破裂率が高くなる。
  • ② ブレブという動脈瘤の璧の突出、不整
  • ③ 部位:後交通動脈分岐部、前交通動脈

その他過去の報告から破裂危険因子と考えられるものとして、2親等以内の家族歴他の破裂動脈瘤(くも膜下出血を起こした動脈瘤)に合併したもの、椎骨脳底動脈に発生多発いびつな形高血圧喫煙歴多量の飲酒のある場合、経過観察中の変化症候性のもの(脳神経の圧迫症状)などが挙げられています。一方で発見されてから数年間の経過で形状や大きさが変化しない動脈瘤の破裂危険性は低いと考えられています。

どのような動脈瘤が治療対象になるの?

  • ● 大きさ5-7 mm以上
  • ● 上記未満の小さなものであっても,
    •   □ 症候性(目の症状など)の脳動脈瘤
    •   □ 前交通動脈,後交通動脈部分岐部などの部位
    •   □ 縦長、不整形・ブレブを有するなどの形態的特徴や、細い血管にできたもの
  • ● 年齢はおおむね70歳以下(余命が10年から15年以上見込める方)

予防的治療は?

くも膜下出血を予防するためには、破裂する前に脳動脈瘤を治療する必要があります。現在未破裂脳動脈瘤の破裂予防治療として二つの治療方法があります。開頭術による開頭クリッピング術(切る手術)ならびに、カテーテルによる脳動脈瘤コイル塞栓術(切らない手術)です。いずれの方法も長所、短所があります。当院では、瘤の位置や大きさ、形、その他患者様の背景などを考慮し、より適切な治療法を選択し提案、相談の上決定しています。

開頭クリッピング術(切る手術)

当院では髪毛は切らずに行っております。皮膚を切る場所は髪の毛で隠れるように設定します(動脈瘤の部位などによってはさらに小さな皮膚切開、小さな開頭で行うこともあります)。皮膚切開をした後特殊なカッターで頭蓋骨を外し、脳の表面を覆う硬膜を切開して脳に到達します。脳に到達してからは顕微鏡下での手術になります。脳には隙間があり、この隙間を利用して動脈瘤まで到達します。動脈瘤に到達してからクリップを動脈瘤にかけて出血しないように処置をします。場合によってはバイパスなどを併用することもあります。おおよそ1~2週間の入院が必要になります。

脳動脈瘤コイル塞栓術(切らない手術)

脳血管造影室にてレントゲン透視下に行います。足のつけねの動脈に針を刺入しカテーテルという管(ガイディングカテーテルといいます)を入れ、治療する動脈瘤の位置に応じて適切な位置にガイディングカテーテルを誘導します。さらにこのカテーテルの中を非常に細いカテーテル(マイクロカテーテル)を挿入し、動脈瘤内に誘導します。プラチナでできた非常に柔らかいコイルを動脈瘤のサイズや形状に合わせたものを選択し、順次詰めていき動脈瘤内の血流を遮断します。動脈瘤の大きさや形状によっては、風船つきカテーテル(バルーン)を用いたり,ステントを併用することもあります。開頭より入院期間は短く5日から1週間前後の入院となります。

治療は安全なのか?

安全な治療を高い水準で提供できるようスタッフ一同日々研鑽しておりますが、手術には不確定な要因もあるため、絶対に安全な治療はなく、治療により合併症をきたす可能性があります。頻度は少ないものの、麻痺や失語などの重篤な後遺症や、きわめて稀ですが死亡をきたすようなこともあります。合併症の種類や頻度については治療する動脈瘤や患者さんの状態、治療方法により異なるため、詳細を治療前に十分説明し、納得が得られた場合のみ治療を行います。

経過観察する場合は?

未破裂脳動脈瘤の自然歴は未だ不明な点も多く、一方で治療する場合には、残念ながら絶対に安全な治療方法がないのが現状です。経過観察を選択した場合には、破裂の危険因子である喫煙、大量の飲酒を避け、高血圧を管理することが重要になります。また半年から1年毎の画像による経過観察をおこなうことが推奨されます。経過観察にて瘤の拡大や変形、症状の変化が明らかとなった場合、治療が必要になることがあります。しかし経過観察をしても破裂を予防、予知には限界があるのが現状です。もし経過観察中に突然今まで経験したことのないような激しい頭痛が出た場合にはすぐに受診するようにしてください。

どうしたらよいのか?

最終的には動脈瘤の破裂危険性、治療難易度、年齢と健康状態、人生観などを天秤にかけ方針を決定していきます。経過観察、開頭クリッピング術、コイル塞栓術の3つの選択肢の中から、その時点で最善と考えられる方針を選択します。脳動脈瘤=くも膜下出血ではなく、また脳動脈瘤=手術ということでもありません。   未破裂動脈瘤と診断されると頭の中がパニックになり冷静な判断ができなくなったり、また情報も氾濫しているためどうしてよいか分からなくなることも多いかと思います。私たちは、破裂の危険性が高いと考えられる患者さんに対し、最大限安全確実な治療を提供できるようにし、一方で破裂の危険性が少ないと考えられる患者さんに対しては、極力不必要な手術や不安を回避するようにしております。一人で悩まずお気軽に相談ください。

脳卒中センター長 山崎貴明